piccola: 2010年5月アーカイブ

窪田晶子の音楽はごちそう

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 News Piccola紙面になかなかコーナーが設けられないのでここでご紹介。今回は今限られた映画館でのみ公開されている映画「ドン・ジョヴァンニ~天才劇作家とモーツァルトの出会い」のご紹介です。

 
「物語が誕生するとき、その作品の中に作者自身が見え隠れする。」
オペラ「ドン・ジョヴァンニ」が題材とくれば、自ずと主人公はモーツァルトだろうと思うでしょう。しかしこの映画の主人公はロレンツォ・ダ・ポンテ。
ダ・ポンテといえばモーツァルトの代表作「フィガロの結婚」「コシ・ファン・トゥッテ」を手がけた台本作家です。ダ・ポンテがオペラ「ドン・ジョヴァンニ」をモーツァルトとともに完成させていくストーリーです。
《ロレンツォ・ダ・ポンテは神父として仕えながら自由や芸術を愛し、放蕩三昧の日々。ユダヤ人である彼は秘密結社に属し、教会に反逆したとしてヴェネツィアを追放される。カサノヴァ(彼も多く映画化された人物です)から自由な気風のウィーンへ行くことを勧められ、彼の紹介でサリエリに出会う。放蕩者として噂されるダ・ポンテに興味を示した皇帝ヨーゼフ二世が、モーツァルトのオペラの新作を書くように提案する。
その題材は「ドン・ジョヴァンニ」。しかし、すでに同じ題材で何度も舞台化された作品であるとモーツァルトは抵抗する。が、ダ・ポンテの口から語られるその魅力的なストーリー展開に引き込まれ、モーツァルトも作曲に熱を込め始める・・・》
 
二人の天才が出会い、傑作オペラが誕生するまでのお話。「ドン・ジョヴァンニ」ではキャラクターの異なる3人の女性(ドンナ・アンナ、ドンナ・エルヴィラ、ツェルリーナ)が登場しますが、その3人の女性がなぜオペラに登場することになったのか・・・その筋道を作るべくヒントとなったダ・ポンテを取り巻く女性たちとそのシチュエーション。加えて作家として危機的な事態。それらはある意味大きなヒント、チャンスとなって台本を傑作へと導き完成していく。
このオペラを知っていてもいなくても、ダ・ポンテの魅力的な描かれ方に引き込まれていくうちに、いつのまにかオペラ「ドン・ジョヴァンニ」を楽しんでいるという感じです。
またこの映画のもう一つの楽しみは、モーツァルトとダ・ポンテという二人の天才の饗宴でしょうか。この二つの才能が化学反応した時にどれほどすばらしいものが生み出されるのか!喜怒哀楽、彼らの感情が極限に達した時のインスピレーションはエネルギーに満ち溢れ、今はやりの3Dを見ているかのように、その才能が立体的に感じられるのです。
この映画では要所でアリアやアンサンブル、弦楽演奏が挿入されています。これらは監督の意向で吹き替えはありません。その歌声も非常に聴き応えがあります。
ダ・ポンテが本当の愛を求めるときに流れるのが「フィガロの結婚」からケルビーノのアリアということも興味を引くところではありますが、私が最も印象に残るのは、どこか根底に“騎士長”の影を感じること。映画の始まり方、モーツァルトとダ・ポンテの精神的なターニングポイントとその後の人生・・・オペラ「ドン・ジョヴァンニ」での騎士長という存在の意味が反映されているような気がしてなりません。