「史上最大の作戦」「愛と哀しみのボレロ」「ダイ・ハード」…ベートーヴェンの楽曲が使われた映画は数知れず。日本では黒澤明監督の「赤ひげ」で第九のモチーフが使われていますが、黒沢監督はフルトヴェングラー指揮、バイロイト祝祭管弦楽団のレコードを手にし、“このような感じで”と具体的に提案したとか。またテレビでは第九や運命の旋律が頻繁に使われ、今では効果音に近い存在かもしれません。

  さてこの曲にもベートーヴェンのモチーフが…「夢見るシャンソン人形」。セルジュ・ゲンスブールが作詞・作曲し、フランス・ギャルが歌って大ヒットしたフレンチポップス。日本人歌手も岩谷時子さんの訳詞でカバーしヒットした曲です。この冒頭のテーマ“わたしはかわいいシャンソン人形♪”の部分、なんとベートーヴェンのソナタの引用なのです。少しコアな部分ですが、ピアノソナタ第一番四楽章の一部分。第二主題のあとに出てくる、終止のための主題(ちょっとややこしい)。こんな部分をポンと持ってくるとは、しかもポップに仕上げるとは!ヒットメーカーという人たちの豊富な情報量と関心の広さ、そして自在に表現にはめ込んでいく才能に改めて脱帽です。

音楽が聴きたくなる本

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音楽が聴きたくなる、さらに聴き比べしたくなる本をご紹介します。
 
ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた 青山 通・著(新潮文庫)
  ウルトラセブンに夢中になっていた青山少年(著者)は、放送最終回の一番大切な場面と、突如流れる音楽に衝撃を受ける。シューマンのピアノ協奏曲が衝撃的なストーリー展開と相まって少年の脳裏に深く焼き付いたのだ。まさに音楽への情熱が芽生え、道を開いた瞬間!この曲は何だろう…やがてシューマンのそれとわかる。しかしようやくレコードを入手して聞いてみればまるで印象が違う。彼にとっては「ニセモノ」の演奏なのだ。ではウルトラセブンでは、あれは一体誰の演奏だったのだろう…
これは少年が「ホンモノ」に出会うまでの7年間の冒険談。思わず胸がキュッと熱くなります。さらには音楽系の仕事に就き、ついにウルトラセブンの作曲家・冬木透氏にお会いする。そしてシューマンを使ったいきさつなどを聞き出すに至るのです。凄い!これぞ最高の着地点!まだインターネットが普及していない頃のことですから費やした労力はいかほどか。その感動は文章から溢れ出ており、読み進めるうちにこの代えがたい経験のすべてがうらやましくなります。
心にしずくが落とされ、その潤いが体に広がっていくような経験、きっと皆さんにもおありでしょう。「ウルトラマンには興味がない」などと遠ざかっていては少しだけもったいない一冊です。(窪田晶子)

 

映画《旅立ちの時》

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 ベートーヴェンイヤーに因んでこんな映画はいかがでしょう?

『旅立ちの時』
~1988年・アメリカ 監督/シドニー・ルメット 主演/リバー・フェニックス
 
ベートーヴェンの音楽が使われる映画はたくさんありますが、この作品もその一つ。
60年代のアメリカ。少年ダニーの両親は反戦運動のテロリストとしてFBIに指名手配されている。生活環境に危機が迫ると名前を変えて引っ越しを繰り返してきた彼はいつも本心を出せない。もちろん将来に希望を持つことも。そんな彼が転校先で初めて音楽の授業に出席する場面です。
音楽教師はマドンナの歌とクラシック音楽を生徒に聴かせる。生徒たちはその違いを“ポピュラーとクラシック”“悪い音楽と良い音楽”などと答える。教師がかけたのはベートーヴェンの弦楽四重奏曲第7番「ラズモフスキー」。ダニーはその曲がベートーヴェンのものとわかっている唯一の生徒なのだ。“ベートーヴェンでは踊れない”と答えるダニー。才能に気づいた教師はピアノを弾くことを促すと静かにピアノの前に座り、ベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」の二楽章を弾き始める…古びたグランドピアノに向かい、ひたむきに音を紡ぎだす姿はどこか寂し気で、背負ってきた境遇と穏やかなメロディーが感傷的に重なり合います。この二曲のベートーヴェンを用いた場面がその後の展開の出発点となるのです。
やがて人生の岐路に立ち、思春期ならではの葛藤を抱えながら「旅立ちの時」を迎えるダニー。彼にとって音楽は心を支えてくれるもの、そして将来を導いてくれる光。人間にとって、どんなときでも傍らに音楽があるのは何よりの救いであると感じずにはいらせません。

アブ・ハッサン

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 さて5か月ほどさかのぼります。2019年12月に公演したオペラ「アブ・ハッサン」を振り返ってみます。
 場所は“ことにパトス”という地下鉄駅直結のイベントスペース。100席程度のコンパクトな空間はお客様と会話をしているような距離感。とくれば、このオペラもそれに見合ったものにしよう!ということで、芝居はよりわかりやすく、細かなネタもふんだんに盛り込み、しかし歌やアンサンブルはよりみっちりと正確に。アラビアの雰囲気たっぷりの歌謡ショーのシーンも加えて…初演の数倍も濃厚なものになりました。作曲家のウェーバーだってこんなことになるとは思っていなかったかもしれない。天国から“まったくバカなことやってるなぁ”なんてツッコミながら楽しんで見守ってくれていたと…思いたいです(笑)。
でも舞台の面白い要素をふんだんに盛り込むのは非常に面白い!苦労があってもやはり楽しさが勝ってしまうのでやめられないのです。個人的には客席から出入りしたり、客席でお客様を少し巻き込んでのお芝居が他にはない楽しい経験として残っています。
 また楽しい舞台が出来る日が来るのを、今は心を熱くしながらじっと待つ毎日です。

 

昨年は創立30周年を迎え、オペラ「オルフェオとエウリディーチェ」「アブ・ハッサン」、そして30年を振り返る記念コンサートなど、支持会合唱団の皆さんにもお力添え頂いて様々な公演を行うことができました。今年はオリンピックイヤー、そしてベートーヴェンイヤー!さらに充実したコンサートをお楽しみいただこうといろいろな企画が進んでいたのですが、あれよあれよという間に日本中が緊張に包まれる状況になってしまいました。残念ながら延期が決まった公演もありますが、楽しみは少し先に延ばして、音楽への気持ちを熱く燃やしながら準備していきたいと思います。
さてコンサートの無い空白期間、私も自宅時間がたっぷり。パソコンに向き合う時間も出来てきたので、ちょこちょことこちらも更新していきたいと思います。
ということで続きはまた次回…

 

 

 オペラ「オルフェオとエウリディーチェ」の公演まであと少しとなりました。札幌室内歌劇場30周年記念公演であり、第13期コール・ピッコラ(支持会合唱団)との共演でもあります。大人数での稽古もますます熱くなり、演技や音楽の細かな指示に一生懸命向き合いながら、それぞれが本番に向けて頑張っているところです。

 

 さてオルフェオとエウリディーチェの原作はギリシャ神話の「オルフェオ伝説」。亡くなった妻・エウリディーチェを黄泉の国から連れ戻そうとするも、オルフェオは神との約束を守り切れずに再びお別れすることにというストーリー。しかしグルックのオペラでは愛の神の救いを受けて二人は無事に出会うという結末。めでたしめでたしなのです。

 現代では人の生に重きが置かれているため、なんとかして長生きしよう、死を遠ざけたいという思考にあります。しかし神話などで語られる天地創造に戻れば、この世の喜びや栄誉などすべては死の影に存在するものでしかない。生に執着することは危ういもののように感じられます。

今回の稽古に参加しながら思うのは、このオペラでタイトルロールの二人が感じ続ける苦しみや痛みは、まさに現代人のそういったもがきの投影ではないかと。現代人の死生観の根本をついているような気がしています。

 

 さていよいよ今週末が本番!713日はすでに完売しておりますが、14日はまだお座席のご用意が可能です。幌プラザコンサートホールにて15時開演。ぜひお運びください‼

 

パリでのこと

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  先月の終わり頃、パリへ行ってきました。異文化に触れると感じることがたくさんあります。乗り物、お店、レストラン、ホテル・・・全てにおいて自国とはルールが異なり、いろいろ挑戦してはうまくいったりいかなかったり。そういった経験が旅の記憶にもなります。

 パリは古い建物が多い街。100200年など当たり前。歴史と現在が溶け合う街です。だから古いものもとても大切にする雰囲気があります。

私は蚤の市や古本屋などに行くのが好きなのですが、今回は探し物があり、パリ市内にある古着のお店に行ってみました。そこは量り売りというスタイル。衣類の量り売り、と聞くと雑に積み上げられたイメージがあるかもしれませんが決してそうではなく、見やすくきれいに陳列されています。そしてどこかオシャレな雰囲気。服や靴、バッグ、手袋などファッション小物もいろいろ。あれこれ手に取ってみると、かなりヨレた靴やシミのついた革のバッグやら、日本では到底お店に引き取ってもらえないような使い古したものまでもが売られています。でも売られているということは買い手もいるということ。特に若い人たちがお気に入りを見つけるためにあれこれ手に取ったり、その場で試着をする姿もありました(試着室はないので)。なんとも楽しそう。きっと上手に自分に取り入れていくのでしょう。街行く人々を見ていても流行で身を固めている人にはあまり出会いません。古いもの使うこと、新しいものを少し取り入れること、何より自分らしく使うことが身についているのでしょう。

 フードロスが取り上げられることが多くなりましたが、シーズン毎に売れ残った衣類はどう処分されるのか、日本ではまだ知る機会が少ないような気がします。ものを大切に使うこと。自分に出来ること。もう一度考え直してみたいと思いました。

 

再現する喜び

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《作曲家たちが書いた素晴らしい曲を自分で再現できるのが何よりの喜びです》

 これは「あなたにとってピアノを弾くことは?」との問いにある方が答えた言葉。定年退職してからピアノを始め、コツコツと練習して憧れの曲を弾けるようになった方のコメントです。素敵だなぁと思いました。そして自分はどうだろうと。

 楽譜を読むことが仕事であり、毎日様々な曲と向き合い、再現することを繰り返しているけれど、そこに素直に喜びを感じたいと思ったのです。曲と対峙すると苦しいことに必ずぶつかります。思うように表現出来るまで長くて暗いトンネルを明かりも無しに歩いているような気持になることもあります。でも“素晴らしい作品に触れている”という喜びに一瞬でも立ち返ることができたならば、ヒートアップした頭を落ち着かせることができるかもしれない。あるいは違った角度から曲を眺めることができるかもしれない。

 

 このコメントを聞いた翌日、私も弾いてみたかったピアノ曲の楽譜を開いたのでした。影響されやすいですね、単純です、はい。

 

チェーン店が増えました。飲食店や衣料品店、薬局、スーパーなど、日本のどこへ行っても同じようなお店が並ぶということも少なくありません。北海道にしかなかったお店が関東にも出来たり、またはその逆もあったり。初めこそ同郷の仲間に再会したような気持ちになりましたが、今では“これもやって来たか”という感覚。それほどに多くなりました。

 先日、10数年ぶりに某チェーン店に立ち寄りました。サンドイッチを選び、その場でどんどん具を挟んでくれるあのお店です。昔のままの感覚でショーケースの前に立つ。そこまでは良かったのですが、その後やり取りに最後まで四苦八苦、というかチンプンカンプン。その要因はシステムが少し変わっていたのと、店員さんの言っていることがよくわからなかったこと。マニュアル一辺倒でわからないことを聞きたいのに会話が成り立たないのです。でも後ろには列が出来ている。ものすごいアウェイ気分。でもなんとか先に進まねばならない…何やら違う世界に入り込んでしまったような気分を味わいました。サンドイッチを買うだけなのに。

 でもちょっとお待ちなさい、と私は心の中で呟く。マニュアルって一体何なの?

  店員はマニュアルを叩き込まれ、教えられたルールに則って接客します。店員さんがどんな対応をしてくるのか骨身に浸みている人にはスムーズに進むでしょう。決まったように答えるのみで無事にお会計までたどり着くことができます。しかし初めて訪れる人や、ゆっくり対応してほしい人にとってはどうだろう。客だって年齢も好みも様々です。マニュアル一辺倒で対応されると、そのマニュアルに対応できるように客が頑張って店員に歩み寄っていかなければならない状況に陥ります。

 どこに目線を置いてアクションを起こすのか。その人の柔軟性とか対応力とか、マニュアルにはない要素を生かしてこそ接客は成り立つのではないのかな。と、過去に接客業やお客様対応に携わった自分への反省も込めて、そう思うのでありました。


 

そろそろどうでしょう?

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稀勢の里関が引退しました。

”唯一の日本人横綱”と言われ続けました。その重圧は本人にしかわからない苦しさだったことでしょう。怪我を押して土俵に立ち、痛みに堪えて勝つ。日本人の好きなカタチ。しかしこれが力士としての寿命を縮めてしまったのでしょうね。悔しいだろうなぁ。怪我は付き物とはいえ…切ないです。

さて、”唯一の日本人横綱”と耳にするたびに、もうそろそろ”日本人”というくくりを抑えてはどうかなと感じていました。ふた昔前くらいはハワイ出身の力士が強く、その後モンゴルや韓国、中国、ヨーロッパ出身の力士が増えました。皆さん日本語も上手で相撲や日本のしきたりに則って日々暮らしています。文化の違う方がまわしを締めるだけでも勇気がいるだろうなとも思いますし…思えばもう外国人力士が活躍し始めてかなりの年月が経つのです。相撲人気低迷を支えてくれたのも外国人力士じゃありませんか。決まり手が気に入らん!とか懸賞金の取り方が気に入らん!とか、まぁいろいろご意見も耳にしますが…そろそろどうでしょう、マスコミの皆さん、フラットに「相撲」でいいのでは?厳密には相撲は国技ではないわけだし。

というのもいつのこのことが重なって見えるからなのです。

日本人が外国でオペラを歌うとき、以前は”日本人はこの役はだけ。この役はダメ”ということがありました(今も?)。悔しい思いや苦労もたくさんあったことでしょう。他の分野でもこういったことはまだ存在します。

同じような偏見を持って日本にいる外国人を見てはいないだろうか。極端に”日本人力士”を強調するとき、心の奥底がチクッとします。

 

 

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