piccola: 2020年6月アーカイブ

音楽が聴きたくなる本

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音楽が聴きたくなる、さらに聴き比べしたくなる本をご紹介します。
 
ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた 青山 通・著(新潮文庫)
  ウルトラセブンに夢中になっていた青山少年(著者)は、放送最終回の一番大切な場面と、突如流れる音楽に衝撃を受ける。シューマンのピアノ協奏曲が衝撃的なストーリー展開と相まって少年の脳裏に深く焼き付いたのだ。まさに音楽への情熱が芽生え、道を開いた瞬間!この曲は何だろう…やがてシューマンのそれとわかる。しかしようやくレコードを入手して聞いてみればまるで印象が違う。彼にとっては「ニセモノ」の演奏なのだ。ではウルトラセブンでは、あれは一体誰の演奏だったのだろう…
これは少年が「ホンモノ」に出会うまでの7年間の冒険談。思わず胸がキュッと熱くなります。さらには音楽系の仕事に就き、ついにウルトラセブンの作曲家・冬木透氏にお会いする。そしてシューマンを使ったいきさつなどを聞き出すに至るのです。凄い!これぞ最高の着地点!まだインターネットが普及していない頃のことですから費やした労力はいかほどか。その感動は文章から溢れ出ており、読み進めるうちにこの代えがたい経験のすべてがうらやましくなります。
心にしずくが落とされ、その潤いが体に広がっていくような経験、きっと皆さんにもおありでしょう。「ウルトラマンには興味がない」などと遠ざかっていては少しだけもったいない一冊です。(窪田晶子)

 

映画《旅立ちの時》

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 ベートーヴェンイヤーに因んでこんな映画はいかがでしょう?

『旅立ちの時』
~1988年・アメリカ 監督/シドニー・ルメット 主演/リバー・フェニックス
 
ベートーヴェンの音楽が使われる映画はたくさんありますが、この作品もその一つ。
60年代のアメリカ。少年ダニーの両親は反戦運動のテロリストとしてFBIに指名手配されている。生活環境に危機が迫ると名前を変えて引っ越しを繰り返してきた彼はいつも本心を出せない。もちろん将来に希望を持つことも。そんな彼が転校先で初めて音楽の授業に出席する場面です。
音楽教師はマドンナの歌とクラシック音楽を生徒に聴かせる。生徒たちはその違いを“ポピュラーとクラシック”“悪い音楽と良い音楽”などと答える。教師がかけたのはベートーヴェンの弦楽四重奏曲第7番「ラズモフスキー」。ダニーはその曲がベートーヴェンのものとわかっている唯一の生徒なのだ。“ベートーヴェンでは踊れない”と答えるダニー。才能に気づいた教師はピアノを弾くことを促すと静かにピアノの前に座り、ベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」の二楽章を弾き始める…古びたグランドピアノに向かい、ひたむきに音を紡ぎだす姿はどこか寂し気で、背負ってきた境遇と穏やかなメロディーが感傷的に重なり合います。この二曲のベートーヴェンを用いた場面がその後の展開の出発点となるのです。
やがて人生の岐路に立ち、思春期ならではの葛藤を抱えながら「旅立ちの時」を迎えるダニー。彼にとって音楽は心を支えてくれるもの、そして将来を導いてくれる光。人間にとって、どんなときでも傍らに音楽があるのは何よりの救いであると感じずにはいらせません。